晩秋

人間の証明

シンディ・ローパー

まだ小学校に上がる前だったと思う。

家の居間には親が買ったCDとテープが聴ける黒くて大きなコンポがあった。

コンポにはタンスの引き出しのようなものがついていてそこにCDやテープを収納できるようになっている。

コンポの操作を覚えた私は機械を操作できることが楽しくて何か聴いてみることにした。

引き出しを開けると何枚かのCDとテープが雑に入れられている。

そこで一枚のCDが目に止まった。

それは真っ赤な背景に真っ赤なハットを被り真っ赤な口紅をした金髪の女性の顔が写っているジャケットだった。

ケースからCDを取り出し試しコンポに入れ再生ボタンを押す。

スピーカーが震え曲が流れ出す。

綺麗なメロディーに伸びやかでパワフルな歌声。

思わず踊り出したくなるような軽快なリズム。

衝撃的だった。

コンポの前に立ち尽くしてしばらく動けなかった。

聴いた瞬間からそのアーティストが好きになっていた。

私が初めて音楽を好きになった体験である。

 

後になってそのアーティストがシンディ・ローパーだと知るのだが

私はしばらくのあいだ名前もわからず毎日そのCDを聴いていた。

そしてコンポの前でへんてこなダンスを踊っていたのだ。

 

シンディ・ローパー

私が音楽を好きになるきっかけを与えてくれた素晴らしいアーティストであり世界的なスターだ。

 

彼女は1953年にニューヨークに生まれる。

12歳の頃からギターを弾いて曲を作っていたが

学校には馴染めず授業には出ず絵を描いたり歌を歌って過ごしていたという。

17歳になると愛犬を連れてカナダに旅に出てしまう。

そこでアートスクールに通ったり生活のために様々なアルバイトをして過ごす。

旅から戻り再びニューヨークで暮らすようになるとバンドを組んでライブハウスで歌うようになった。

レコードを出しデビューも果たすが成功することはなく自己破産も経験している。

しかし彼女は歌うことをやめなかった。

再び歌手としてデビューするチャンスを掴んだ彼女はソロシンガーとしてのファーストシングルで大ヒットを遂げることになる。

それが"Girls Just Want To Have Fun"だ。

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その後も立て続けに

"Time After Time"

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"She Bop"とシングルを出せばすべてヒットした。

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こうして彼女はアメリカだけではなく世界的なスターになっていく・・・

 

私がコンポで聴いて衝撃を受けたCDは1994年に発売されたベストアルバムだった。

"Twelve Deadly Cyns...and Then Some"

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今見てもジャケットが美しい。

 

衝撃の体験から十数年が経ち

大人になった私はシンディ・ローパーの姿をこの目で見て、歌声をこの耳で聴くことになる。

彼女が来日し、サマーソニックに出演したのだ。

チケットを買い興奮して会場に向かったのをよく覚えている。

初めて見る彼女はあまり身長は大きくなく

派手な衣装にカラフルな髪をしていて

永遠のガールと言われるだけあってとても可愛らしく見えた。

しかし歌い出すとその印象が一変する。

どこからあんな声が出るのだろうと不思議なほどパワフルな歌声がビリビリと身体に響き渡ってくる。

その時の彼女はもう60歳を超えていたはずだ。

それなのに、コンポの前で聴いたCDの歌声と何も変わっていなかった。

あの時衝撃を受けた歌声を、目の前で聴いていることが嬉しくて感動して、気づけば涙を流していた。

 

その後も武道館でのコンサートに行ったりと彼女の魅力にますます虜になっている。

彼女は現在66歳であるらしい。

これから来日してくれることが何度あるだろう。

今でも彼女の音楽が大好きだし、また生の歌声を聴ける日が来ることを願っている。